2008-06-01

バネとツメ

数日前から台所のレンジフードについている照明用ボタンの調子がおかしいんです。

レンジフードには左から『切』、『弱』(換気扇) 、『強』(換気扇) 、『照明』と 4 つのボタンがついていて、この『照明』ボタンだけは単体でスイッチの入切ができます。それが押している間は照明がつくのですが、離すと引っかからずに消えてしまうようになってしまいました。まあ、何回かカチカチしているうちに引っかかるようにはなるんだけど、とにかくスイッチを入れたままにするギミックがおかしいみたい。

というわけで、バラしてみる。

フード内側のカバーをはずして、そのボタンのユニットが留められているステーのネジを外す。電気のコードもカシメてあるのを、じわじわと外してあげる。

はい、これでユニットが取り出せました。4 つのボタンがついたユニット。そのボタンにはバネがついていて、筐体はプラスチック製。ツメで留まっている。

ああ、なんだかとてもいやな予感がする。

えー、いやな予感というのはですね、この『バネ』というものが非常に私と相性が悪いんです。いや、バネだけならいいんです。バネだけとなら私、わりと上手くやっていけそうな気がするんです。でも『ツメ』が。このプラスチック製のツメが加わるとですね、もうダメなんです。どんなにか慎重に細心の注意を払って、まるで女の子の手に初めて触れるときのようにジェントルに扱ったとしても、最後のチカラの入れ具合で失敗してしまうんです。ガシャッもしくはグシャツというイヤな音とともにバネは飛び、そのバネに気を取られて手元がおろそかになり、内部の部品がバラッと落ちる。「ガシャッ!ビョーン!ああっ!バラッ!」って。バネを探して、またはどこに嵌っていた部品なのかわからないものを前にして、今まで何度途方にくれたことか。バネとツメ。あああ、とーてもいやな予感がする。

が、しかしだ。ここまで来て後に引くわけにはいかないではないか。朝が来ない夜がないように、私だっていつの日かバネとツメとの歴史的和解を果たし、国旗はためく船上でがっちりと握手をする日が来るかもしれない。そしてその日というのが、もしかしたら今日かもしれないじゃないか。よし、やってやろう。そして「この人に任せて大丈夫かしら?」的な疑いの眼差しを隠そうともしない妻の鼻を明かしてやろうじゃないか。つか、いつからそんな目で私を見るようになったんだ、君。昔はもうちょっと尊敬とはいえないまでも、えーと、なんというか気遣いのようなものがあったではないか。それをそんなあからさまな目つきで。あ、いやいやそんなことを考えている場合ではない。バネとツメだ。バネとツメと私とのトロイカ体制による新しい国家の発足だ。新しい国ができた人口わずか 15 人・・・・・・

というように自分を鼓舞しつつ、爪楊枝を用意し (ツメにはさむ用) 、テーブルにバスタオルを敷いて (バネが飛んだとしても、あまり遠くへ飛ばない用) 慎重かつ繊細にバラし始めたわけです。

「ガシャッ!ビョーン!ああっ!バラッ!」

・・・・・・もうね、なんていうんですかねこの感じ。がっかり?そうですね、がっかりっていうんですよね、きっと。ええ、和解交渉も決裂ですよ。新しい国家なんて夢のまた夢ですよ。そりゃそうだよね。あんなくるくるして伸び縮みするヤツやら、こう、どこかに引っかかることしか考えてないようなヤツを信じた私がバカだったんですよね。

ほら、「あー、やっぱり」って目で私を見ているではないか。ちょっと待て。自分の予測が当たったという意味でそんな優越の目をしているのかもしらんけどな、ここはこの現状について悲しみの目をするべきではないのか?勢いにまかせてボタンが 2 つも飛んでいるではないか。見たこともない小さな金具が落ちているではないか。さらになんだ?このバネは?いったいどこから出てきたんだ?そしてこの素頓狂に小さなプラスチック片はいったい私に何を求めているんだ?なあ、分かるように教えてくれないか?ええ?

と繰り言をいっていても仕方がないので、ばらばらになった部品をかき集めて考えてみます。まず当初の問題であった『照明』ボタンについてはすぐに解決しました。どうやらスイッチを入れたときに引っかかって、もう一度押したときに外れる針金状の部分がアマくなっていたようです。チカラをかけて少し起こしてやると、希望通りの挙動をするようになりました。

そして謎のバネと金具について、これはスイッチ端子の部分で、バネはその端子がアマくならないようにテンションをかけるためのものでした。なかなか親切な設計ですね。

さて、問題は小さなプラスチックの部品です。形状は台形で、どこにでも嵌りそうな嵌らなさそうなサイズ。んー、こういったときは実際の挙動を考えるのが近道ですね。『照明』ボタンはそれひとつで完結したもので、そしてすでに問題はなさそうです。『切』は『弱』と『強』をキャンセルする動作をするもので、それはそのボタン下に嵌っている鉄片を動かすということで実現されています。じゃあ、『弱』と『強』に関係する部品ってことか・・・・・・あ!そうか!

結局、謎のプラスチック片は『弱』を押したときには『強』をキャンセルし、『強』を押したときは『弱』をキャンセルするためのものであることが分かりました。これがわかれば後はどう嵌めればそういった挙動をするのかを考えて、そこに入れてあげれば OK です。台形なのは斜めになっている辺の部分でボタンを徐々に (といっても、一瞬ですけど) 押してキャンセルするためだったわけです。なるほどなあ。

いやあ、人の作ったものを後からなぞるのって面白いですよね。和解問題も眼差し問題も、この面白さに比べればたいしたことではないです。でもまあ、壊れないことに越したことはないんでしょうけどね。

5 回目の結婚記念日はこんなことをしているうちに過ぎていきました。平和だなあ。

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